[完]Dear…~愛のうた~

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「頑張ってね」

心配そうだけど、嬉しそうに笑った
杏奈の笑顔と声が頭から離れない。

そして、私の体も緊張と不安から
小さく小刻みに震えている。

そしてそれをごまかすように
私は自然にそっとポケットから
音楽プレーヤーを取り出して
ヘッドホンを耳につけてあの曲を選択する。

すると心地よい世界に一瞬に引きずりこまれる。

私はそっと目を閉じて彼の温かい歌声を
心に染みる程強く感じる。

そして一つの歌詞を聞いて
私の体は再び動き始めた。

ただ、一つの目的地を目指してひたすら走った。

どうしてだろう。

こんなに短い距離なのに、今はとても長く感じる。

何だかいくら走っても届かない気がする。

けれど、私は走りつづけた。

だって、私にはまだ託された試練があるのだから。

そして、曲が終わると同時に
私は目的地に辿りついた。

ドアの前で息を整えて一度固唾を飲んだ。

そして大きく深呼吸をしながら
耳からヘッドホンを外して
そっと手を持ち上げた。

なんでだろう。

隆弘が事故に遭ったって聞いた時は
すぐ勢いよく入れたのに、
今は心臓が張り裂けそうに騒ぎ立てている。

そんな時、私には懐かしい淡い記憶が浮かんだ。

あのChargeの溜まり場。

入りずらかったあの雰囲気を一瞬で壊した
彼の優しい声と笑顔。

そんな記憶に思わず笑ってしまいながらも
少しずつ勇気を出して

ーコン、コン……

一気に私の手に骨を伝う振動がやってくる。

そして私はそっとドアに手を開けて
ゆっくり、ゆっくり眩しい部屋の入り口を開けた。