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どれくらい時が流れただろう。

私の目からはもう涙は出てこなかった。

すると肩に感じる温かい温もり。

「はい、カフェオレ」

真っ赤に腫れているであろう目から
うっすらと見える小さな輪郭を縁取る笑顔。

私はそのままカフェオレを受け取って
その人をジッと見た。

「もう病院には、私達しかいないから」

私を見る目はどこか安心して、という
メッセージが込められていた気がする。

それはきっと、真司くんのことなんだろうけど。

「さっき、自動販売機でコーヒー買おうと思ったら
ふと、目にカフェオレが映ってさ。
カフェオレ見てたら
二人のこと思い出しちゃって買っちゃった」

うふふ、と笑う杏奈の目は少し悲しそうだった。

「じゃ、私帰るね?
実彩はここに残るんでしょ?」

杏奈の言葉に頷いてそのまま立ち上がる。

「そっか、何かあったら連絡して?
すぐ駆けつけるから」

“ありがとう”

私が呟いたのを見届けると
杏奈は優しく笑って部屋を後にした。

そして自然と私の視線は
手に握られているカフェオレにいく。

人の温もりと同じくらい心を癒やしてくれる温度に
頭の片隅から淡い記憶が戻ってくる。

そしてカフェオレを彼と私の手の間に埋める。

すると、温かさが倍になって伝わってくる。

彼もそんなふうに感じてくれているのだろうか。

同じようにカフェオレと一緒に
私が目を覚ますのを待ちあびていた
あの時のように……。

“隆弘……”

心で何回も呼んでいるのに、
彼はまだピクリとも動かない。

ねぇ、そんなに私に会いたくなくなったの?

目が開けたらすぐ私に会えるのに……

もう、遅いってことなのかな。

枯れたと思っていた涙が再び頬を伝う。

どうやら私、隆弘がそばにいると弱くなるみたい。

こんなに、泣き虫になっちゃうみたい。

本当はもっと強いはずなのに、
隆弘の存在が大きすぎて何も手につかないの。

そっと隆弘の顔に手を伸ばしてみた。

綺麗な顔が酷く傷ついている。

その傷と同じくらい、私の胸はキリキリと痛い。

そして私がそっと顔から手を離そうとした瞬間……

ーガシッ……

私の頭の回転はそこで止まった。