真司くんの手には何かに包まれた小さな物。

真司くんが杏奈のことを杏奈って言う時は
怒った時と、真剣に話す時だけ。

だから、私は少し戸惑った。

「あーちゃんは迷ってた。
これを実彩ちゃんに渡すか渡さないか」

杏奈が……?

「これは、あーちゃんがある人から預かった物や。
その人はあーちゃんにこう言った。
“いつか、何年後でもいいから
これを実彩に渡してくれ”って」

そっとその物を見てみると
とても大事な物に見えた。

「あーちゃんは実彩に渡すのが怖かったんや。
ここ最近、実彩ちゃんの様子がおかしかったやろ?
だから、もっと実彩ちゃんを壊しそうで
怖かったんや。
けれど、あーちゃんは決めた。
これを実彩ちゃんに渡すって。
でも、自分から渡すのは何か違う気がするって
思ってたらしくて、
この大事な仕事を俺に託したってことや」

そして、真司くんは私にその物をそっと渡す。

「誰からどんな物が入っているかは、
自分の目で確かめや?
これが、俺の出来る仕事や」

私は恐る恐るその物を受け取る。

そして、ゆっくりゆっくり、大事に大事に
包み込んでいる包み紙を取っていく。

そして、目の前に現れたのは……
音楽プレーヤーとヘッドホン。

驚いて真司くんを見ると

「聞いてみいや」

そっと微笑んでくれた。

そして、ゆっくりヘッドホンを耳につけて
震える手で音楽プレーヤーに手をつける。

そして、画面に映った3つの曲。

一つは、私と隆弘が一緒に作った曲。
「題名のない世界」

私はその曲を流してみると、
ギターの響きと一緒に耳に伝わる暖かい歌声。

久しぶりに聞いたその声が胸を焦がす。

優しい声が心を癒やす。

これは、隆弘が残した物だよね……?