光の元へ行くとホットココアを二つ持って
毛布にくるまってソファーに座っていた。

「あ、来た。飲むか?」

光が見せたのは左手で持っているホットココア。

「サンキュー」

それを受け取ってそのまま光の隣に座る。

こう思うと光とは仲が良くなった気がする。

昔は異常な程、仲が良かったが、
一つの喧嘩で俺達は犬猿の仲となっていた。

なのに、今は体を密着させて隣に座っている。

その光景が不思議でたまらない。

「あんまり考え過ぎんなよ」
「え?」

いきなり話しかけられた言葉に驚く。

「さっきから、切羽詰まった顔で紙見つめてたぞ?
しかも、ペン一回も動かさないで。大丈夫かー?」

笑いながらホットココアに口をつける光。

何だ、見てたのか……

「全然浮かんで来ないのか?」
「あぁ、何か……」

俺の視線は自然と下に向く。

「珍しいな、辻がペン進まないなんて」
「お前、それしか言わないよな」
「え?だってそうだろ?
いつもは凄いスピードで作るのに。
ペンが見えないくらい」
「大袈裟だ」

俺もホットココアに口をつける。

すると、甘さが舌を通り抜けていき、
心に染みる温かさが胸を焦がす。

「つらい?」
「へ?」

いきなりそんなことを聞かれて
変な声が出てしまった。

「実彩ちゃんのこととか、つらくない?」

いつもと違う優しい口調に
少し違和感を持ちながらも

「実彩のことは、もういいんだ。
俺達で決めたことだし……
それより、もう終わったことだから」

作り笑いを見せてごまかすように
再びココアに口をつける。

すると何だか、さっきと同じココアなのに
甘さは何も感じずに、とても苦く感じた。

「まぁ、俺から言えることは何もないんだけどさ、
あんまり無理すんなよ?」
「あぁ」
「考え過ぎて心に秘めるのは
お前の悪いところだぞ」
「……わかってるって」
「俺に相談出来ることがあったらして欲しい。
まぁ、お前が何思ってんのか大体予想出来るけど、
言いたくないこともあるだろうから何も言わない。
けれど、心は正直だ」

その言葉で俺は思わず光を見た。

光の目は真っ直ぐに
俺の目を通り抜けるように見つめていた。

「頭では大丈夫とか、違うとか言っても、
心は自然と動くんだ。
心は絶対に自分を裏切らない。
苦しい時は苦しい、つらい時はつらい。
嘘つくことなんて絶対にないんだ」

光の言葉が痛い程胸に突き刺さる。

だって、それは俺にぴったりの言葉だから。

「だから、その心を外に出してみると
お前も変わってくるんじゃないか?
それを言葉にすると何かがわかるんじゃないか?」

俺は思わず自分の手を見た。

この手の先に握っている鉛筆を見て。

「口に出せなくても、何かに書いたりしたら、
少しは、楽になるんじゃないのか?
その為にお前は、
歌を届ける人になったんじゃないのか?」

そして俺はそのまま机に戻って、手を進めた。

どうして、初心を忘れてしまったんだろう。

ー「俺は、言葉を口に出すのが苦手だから、
その思いをしっかりと紙にまとめて声に出すんだ。
歌って意外とベタな言葉だけど、
それはきっと普段言えないことを届ける、
大事な役目を持っているんだ」

歌手になると決意した時、俺はこう思ったのに、
どうして今は、それが出来なくなっているのだろう。

俺は大きな欠片を見つけた。

これで俺はわかった気がする。

何をしたいのか、何を求めているのか。

きっとこれが、俺の最後の気持ちだから……