その姿を見て俺は再び体を引き離す。

実彩はそんな俺を子鹿のような
くるくるとした大きな目で見つめている。

「実彩、元気になれよ?」

そう言ってそのままベッドから降りる。

そのまま帰ろうともしたが、
やっぱり虚しくなって、実彩の顔を見た。

これで、実彩と時間を過ごすのは最後かな……

実彩はそんなことを考えている
俺の手をギュッと握った。

「……また来るからな?」

すると実彩は安心したように
初めて俺に見せてくれた
クシャッとした笑顔を見せた。

それと同時に淡い記憶が鮮明に蘇る。

ー「北川実彩です」

初めて顔を合わせた日……

ー「じゃあ、隆弘……?」

初めて名前を呼んでくれた時……

ー「第一印象は面白い人」

二人で一緒に詩を書いたこと……

そして……

ー「大きな手を広げたら~♪」

大好きな、手に届きそうもない上手い歌声。

そんな声が戻ってくれるなら俺は何でもする。

そして決心を決めて実彩の頭にそっと手を置く。

「実彩」

大好きなこの名前を
俺はこれからも何回も呼び続けるだろう。

「今度は、Chargeのタカとしてな?」

そしてそのまま部屋を後にした。

これで終わった何もかも……

すると俺の頬に伝わる冷たい感覚。

「情けな……本当っ」

俺は実彩のことになると必ず涙を流す。

でも、これでいいんだ……。

実彩の声が戻ってくれるなら、
俺は何度だってキミから離れるよ……

そっと俺の心の扉に鍵を掛けた。

何重にも何重にも固く……