「大丈夫か?」

そう声を掛けたのに実彩の声は返って来ない。

まだ意識がボーっとしてるのかな
なんて思っていると……

急に実彩が眉を寄せた。

「ん?どうした?」

何だか違和感を感じて実彩をジッと見つめる。

実彩は自分の喉に手を当てて俺に目を向ける。

「実彩、喉がどうかしたか?喉、痛いとか?」

喉に違和感があるのはきっと吐血したからだろう。

勝手に自己解釈して
そのまま看護師さんに伝えに行こうとすると

ーガシッ

腕を後ろから掴まれた。

しかも、その腕は震えている。

不思議に思って実彩を見ると……

「……え?」

静かにいや、何かを訴えるように涙を流していた。

「実彩、どうした?どこか具合でも悪いのか?」

実彩に駆け寄り耳をすませるが……
実彩は何も言ってこない。

酸素マスクが邪魔なんだろうか。

何て思いながら酸素マスクを取る。

そして、俺は目を見開いた。

「実彩!?何で……え!?」

驚き過ぎて何も言葉が出ない。

だって実彩は、口は動いているのに
何も声を発しないんだから……

俺はただ唖然として実彩の口を見つめる。

“助けて”

そんなふうに口が動いている気がする。

でも、俺は何も出来ずに
実彩の手をしっかりと握った。

「大丈夫だ、今先生が来るから待ってろよ?」

実彩を安心させるように頭を撫でると
俺の手をゆっくりと握り返してくれる。

“ありがとう”

口がそう訴えている。

そして実彩は笑顔のまま自分の腕に目を向けた。

倒れたからか腕は綺麗に包帯がほどかれていた。

そしてその腕はまだ痛々しく震えている。

その腕を見てやっぱり思うんだ。

俺は実彩に何もしてあげてないってね……