なんで……

私は言葉が出て来ない。

「あ、ここ隆の部屋ですよね?
そういえば前海で隆と二人で……
あ、ごめんなさい。
そういうの嫌ですよね、芸能人なんですから……」

些細なことにも気遣ってくれる麗さんは
きっと私より何倍も隆弘に似合ってる。

「そういえば、名前まだでしたね。
中里(なかざと)麗です。隆と幼なじみで。
私のことは麗って呼んで下さい」

“麗”

その言葉にはやっぱりまだ違和感があった。

「たしか、私とMISAさんって同い年ですよね!?
私大ファンなんです!!
握手してもらっていいですか?」

そう言って私に手を差し出す。

けれど私は体が動かせない。

何より、頭の中は麗さんの綺麗な顔しかない。

「あ、ごめんなさい……嫌でしたよね?」
「あ、違うんです!!」

手を引っ込めた麗さんに初めて声をかけた。

「え?」

でも、なんて言い訳しよう……

“麗さんを警戒してる”
なんて口が裂けても言えないし……

「あの……私、腕が言うこと聞かなくて……」

まだ治る見込みがない腕を理由にした。

「あ、そうですよね……ごめんなさい。
それより、腕大丈夫ですか?
ニュースではあのビルにいたって言ってましたけど」
「あぁ、知ってたんですね。
でも、大丈夫ですよ?
いつ復帰出来るかわかりませんけど……」

って、何でこんな話を麗さんにしてるんだろ……

「そうなんですか……
ファンとしては寂しいですけど
自分の体を第一に考えて下さいね?」

優しい、というか母性が出てるっていうか
凄い話やすいからかわからないけど……

初対面の人にそんなこと言っちゃってる
私も本当にどうかしてると思う。

「ところで、何で隆の部屋の前で座ってるんですか?」

その言葉で我に戻る。

一体私は何を緩んでいたんだろう。

あのまますぐ、部屋に戻ればよかったのに。

「え、いや……あの」
「もしかして、あの噂、本当なんですか?」

一気に麗さんの声のトーンが低くなった。

「え?」

私は思わず麗さんを見ると……

さっきの可愛いらしい笑顔は消えていた。