「いやっ……!!」

実彩は俺の唇を噛んだ。

そしてそのまま俺を押し返す。

「痛ってぇな……」

俺は実彩を見て絶句した……

「え……?」

だって、実彩はそのまま俺に抱きついてきたから。

「いいよ?続けて……
どうせ、これで最後でしょ?」

“最後”

それは、俺が望みながらももがき続けた言葉。

いざ目の前で実彩に言われると無性に腹が立つ。

ーガンッ!!

俺はまた実彩を壁に押さえ込む。

そしてそのまま

ーゴンッ!!

鈍い音が耳を通る。

「隆、弘……?」

俺が放った拳は実彩の顔すれすれ横だった。

「どうした!!おい、辻!!」

音でびっくりしたのか光が部屋に入ってくる。

「今度は外さねぇ」

実彩にそう言って俺は再び手を上げると

「やめろ!!」

鋭い痛みは俺の拳ではなく右頬にあった。

光が代わりに俺を殴ったみたいだ。

「ふざけんな!!お前、そこまでになったのか!?
もう二度と実彩ちゃんには会わせねぇ!!」

そういうと光は実彩の腕を引っ張って
病室を出ようとする。

「いや!!離して!!」

だが、実彩は必死に抵抗する。

そのまま俺に助けを求めるようにすがりつく。

「実彩ちゃん!!」

それを見た光は実彩を
無理やりにでも引っ張ろうとする。

「いや!!離して!!私、あなたのそばにはいない!!」

どうしてだろう……

こんなに酷いことをしたのに
実彩は俺から離れようとしない。

「私、隆弘が守ってくれなくてもいいの!!
隆弘が、そばにいてくれるだけでいいの!!
お願いだから……これ以上私達に関わらないで!!」

その言葉に涙が出そうになる。

それと同時に強い後悔が俺に襲いかかる。

どうして、俺はもっと実彩を大事に出来なかったのだと。

俺が大事にしていれば、
最初からこうなることはなかったかもしれないのに。

「実彩」

だから、最後に優しい声で名前を呼ぶ。

「隆弘」

その声に安心して実彩は俺に優しく笑いかける。

最後に俺の名前を呼んでくれてありがとう。

「これが今の俺なんだ」

そしてそのまま実彩を光と共に
部屋から追い出した。