実彩の体を持ち上げると
実彩は意識を飛ばしていた。

「実彩!!実彩!!」

話しかけて揺すってみても何も反応がない。

ただ、実彩と俺から流れ落ちる水滴が
何かを知らせるように
ポタポタと落ちているだけだった。

海面を見てみると大きく明るい満月が
夜の暗闇を少しだけ照らしてくれていた。

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実彩を抱え、近くの海岸で服を絞る。

そして車から出したタオルでそっと実彩の体を拭くと、
ピクッと体が反応した。

そんな実彩が心配になって、軽く前髪に触ると

「隆、弘……」

苦しそうに俺を呼んだ。

実彩は何を思っているのだろうか……

いや、何かに捕らわれたんだろうか……

それとも……

「何か、悪い夢でも見たんだろうか……」

そんなことを考えているうちに
辺りはすっかり明るくなっていた。

実彩に触れるとまだ濡れていて、少し寒そうだ。

そんな実彩を抱えて車に乗せ、タオルケットを巻く。

そして、俺が運転席に乗ろうと思った瞬間……

「あの!!」

聞いたことあるような声が耳をかすめた。

いや、絶対聞いたことがある声だった。

だって、その声に体が反応した。

でも、何でこの時振り向いてしまったんだろう……

傷つき、傷つけることをわかっていたのに……

ゆっくり振り返ると、
そこには前と変わらない笑顔があった。

「やっぱり、隆じゃん……」

涙目で俺を見る彼女は実彩ではない。

「会いたかった……」

そう言ってそのまま俺に抱きつく。

実彩とは違う……

小さくて、実彩よりがっちりとしている。

そして、過去を思い出してしまう。

「麗(うらら)……」