[完]Dear…~愛のうた~

ー「いいよ?……でも」

そのまま実彩は黙り込む。

「でも?」
ー「私、隆弘と一回だけでも
本当にデュエットしたいなって……思っただけ。
大丈夫、隆弘の為に歌うんだから別に「いいよ」
ー「え?」

俺も実彩とこの歌を歌いたい。

まだ一回も歌ったこと、なかったから。

「それとさ、もう一つお願いがあるんだけど」
ー「へ?」
「歌う曲、カップリングの曲がいいんだ」

俺達は二人で曲を二つ作った。

俺的にはカップリングのほうが好き。

というより、今の俺達に似ているんだ。

だって、それは俺達の恋心を描いた曲だから……

ー「隆弘、その曲……“Rainbow”好き?」

“Rainbow”(レインボー)

俺達が作ったその曲のタイトルだ。

「あぁ」
ー「そっか、私も大好き」

すると携帯の向こうから息を吸う音が聞こえた。

ー「顔を合わせるのも怖くて下ばっかり見てた」

電話越しとは思えない程の綺麗な声が
俺の心を揺さぶる。

「けれど、そんなキミも笑うとステキで」
ー「もっとそばにいたいって思ったり……」

俺は重症だ。

どうやら実彩が隣にいる気がしてならない。

「明るいキミはなかなか手に届かなくて」
ー「たまにすれ違って泣いて怒って悲しんで」
「素のキミの顔が頭から離れない」

俺達は確かに上手く感情を
伝えられなかったかもしれない。

けれど、実彩の天使みたいな……
いや、天使を超える歌声を聞くと思うんだ。

ー「「どうして離れなきゃいけないの?」」

俺はこんなに救ってもらってるのに、
どうして実彩には何も出来ないんだろう……

実彩がゆかりんと離れなきゃいけない運命なのは
今日で十分わかった。

だったら、実彩にとってゆかりんみたいな存在に
俺はなれないんだろうか……

気づけば俺は携帯片手に家を飛び出していた。