「友香理はあの事故まで普通に暮らしていた。
普通って言ってもいじめられてたし、
俺達の普通じゃないかもしれない。
けれど、確かに事故の後よりは遥かに普通。
そんな中、俺達はどこにでもいるようカップルで
デートだってしたし、いつも俺達まで笑ってた。
そんな中、あの事故が起きたんだ」

あの事故……それは、ゆかりんの父親が
外国の飛行機で小さい子どもをかばって
亡くなったこと……。

「あの出張は友香理が行くはずだった
大学の視察に行っていたんだ。
でもその時、ゆかりんの父親が巻き込まれて
結局それどころじゃなくなった。
友香理はあれから何人の人にも攻められた。
お前がアメリカに留学するなんて言ったからだって」
「そんな……」

事故は不運なものだと考えなかったのか……?

「元々英語の成績がズバ抜けてよかった友香理は
通訳になりたがってた。
だから、アメリカに留学して
本格的に勉強を始めようとしてたんだ。
けれど、あの事故で友香理は何もかも失った。
学校なんか余裕で来るはずないし、
夫を失った社長は全てを友香理のせいにした。
家族からも見放されて
友香理は一時期行方不明になって
3ヵ月連絡もどこにいるのかもわからなかった」

ゆかりんには確かつらい過去があったって
言ってたけど……
想像を超えることがあったなんて……

「やっと見つかった友香理は変わり果てた姿で
大阪の狭い路地裏で倒れていた。
体はアザだらけ、服もボロボロ。
一瞬で何があったのかわかった。
そして背中には小さくタトゥーが入っていた」
「え……?」
「きっと友香理は暴力団関係者に誘拐された。
そして生きる気力を失った友香理を
そいつらは利用したんだ。
そして、体には残るような物を入れて……」

秀は悔しそうに拳を握った。

「見つかってすぐ俺は友香理に会いに行った。
友香理を抱きしめると感覚がなくて
前の友香理が嘘のように思えた。
そんな中友香理は俺にこう言った。
別れてってな……」
「……」
「それからはみんなが知ってる通りだ。
俺が事務所に入ってChargeになって、
友香理は仕方なくここの事務所に入った。
そして、俺が友香理にもう一度告白して
今を状況にあたる」

それは知ってる……

けれど、

「どうして、結婚してないの?
それと何で、結婚してることにしてるんだ?」

どうすればそこに結びつくのかわからない。

すると秀はフッと鼻で笑った。

「簡単だよ。
俺達は社長に利用されてるんだ」