“いつからだろう
一人が怖くなったのは
私の前は真っ暗になって
笑い合っていたあの会話も
今ではただの儚い記憶
何度も握ってくれた私の手のひらは
今はもう何も残らない
君がくれたジャケットも
どこにあるのかもわからない……”

二人でこの歌を歌い終えると
何だか泣きたくなってきた。

すると私は強引に引っ張られて
彼の腕の中に引き寄せられる。

「実彩……」

耳元で名前を呼ばれるだけで
私はもう涙腺が崩壊しそうだ。

けれど、プライドが高い私はまだ泣かない。

「泣いてもいいんだぞ?」
「へ……?」

隆弘……私のこと見抜いてる?

「実彩のことだから泣きたくないかもしれない。
けど、そんな実彩の素直なところを見せて欲しい。
きっとこれが……最後だから……」

そういう隆弘の声は少しかすれていて
私と同じように今にも泣きそうだ。

「う……グスッ……っ……うぅ″……」

私は小さい子どものように
隆弘にしがみついて泣く。

「隆弘ごめん……今まで、本当にごめん……
絶対傷つけたし、たくさん迷惑もかけた。
けど、隆弘と話した時や、一緒に歌を作った時、
凄い楽しかったよ?
隆弘に出会ってたくさん出来事があって
過去と向き合えるようになったの。
だから、こんな私のそばにいてくれて
ありがとう」

すると隆弘は手の力を一層深めた。

「俺も同じ。
実彩と出会えてよかった。
本当に心からそう思う」

私はそのまま隆弘の体から抜け出して
隆弘をジッと見つめた。

「ありがとう……さようなら」

私は最後に涙をこらえながら
最高の笑顔で隆弘に笑いかけて
その場を後にした。

「実彩!!」

後ろから隆弘の声が聞こえたけれど
もう振り返らない。

振り返ると何もかも決心が歪んでしまうから。

「バカ……好きだって言えばよかったのに」

そんな悔しさを胸にしまい込みながら
私は進める足を速めた。

そして曲がり角ですっかり姿が見えなくなった時

私はその場に崩れ落ちて、声を殺して泣いた。

だって、頭に思い浮かぶのは……

隆弘の笑った顔と私を見つめる
真剣な眼差しだけなんだもん……