私が彼を呼ぶとみんなの視線が一気に集まる。

真司くんは手を止めてまで私を見ている。

「実彩……?」

隆弘は目を丸くさせて私を呼んだ。

実彩、そう言われたフレーズが頭に響いて

「隆弘……」

私の体は自然と彼に近づいていく。

私は前にいた真司くんを追い払って
隆弘の目の前に立った。

吸い込まれるような優しい目。

無防備にもセットされた長い前髪とパーマ。

全てが欲しくなる。

「実彩なんで……」

私はそのまま吸い込まれるように
隆弘の体に密着する。

華奢なのにちゃんと筋肉はついている体。

女の子らしい顔なのに、ちゃんとした男の子の体。

私とは……全然違う。

その体が凄く心地よくて思わず腕の力を強める。

「隆弘……隆弘……」

私は隆弘をなくすのが怖い。

名前を呼ばないと、落ち着かないくらい。

「隆、弘……」

それが怖くなって段々涙が込み上げてくる。

自然と腕の力が益々大きくなる。

「実彩?」

そう、もっと私の名前を呼んで……?

もっと、声を聞かせて?

「隆弘……行かないで……」
「……え?」
「どこにも、行かないで……
行っちゃ、いやぁ……」

ずっと、私の名前を呼び続けて……

このまま時が止まってしまうくらいに……

私は隆弘の胸に顔をうずめる。

その瞬間、心地よい心臓の音が私を癒やしてくれる。

速い鼓動……もしかして、隆弘も緊張してる?

隆弘、もっと私にドキドキして……?

顔を上げて隆弘の顔を見上げる。

綺麗な瞳の中にただ一人、私が映されている。

それが堪らなく嬉しい。

「隆弘……行かないで……
私のそばにいて……お願い……」

君の瞳にいさせて……

私はその瞳に吸い込まれるように
持っていたカフェオレを落としてまで
隆弘の肩に腕を回し、大きく背伸びをして
ゆっくりと目を瞑りながら
私は隆弘の厚くて柔らかそうな唇に
そっとキスをした……