「は!?何よそれ!!
そんな、私を期待させたって無駄なんだからね!!
大体、ここまで来るはずないんだから!!
私をバカにしてるんでしょ!!
嘘つくなんて最低!!
私、嘘つく人大っ嫌いなの!!
だから隆は実彩に「あーちゃん!!」

俺に何かを言っていた杏ちゃんの声を
遮ったのは……やはり彼。

「真ちゃん……」

杏ちゃんは目を丸くして真司を見ている。

「なんで「お前、あーちゃんに何したんや!!」

真司はいきなり俺の胸倉を掴んで怒鳴りつける。

「いくら隆でも、あーちゃん泣かせたら許さんで!?
言ってみろや、何したんや!!」
「ちょ、真ちゃん!?」

あらら、真司ご立腹ですな……

「黙ってるつもりやんか!?
なら、一発殴らせてもらうで!!」

そう言って真司が腕を挙げた瞬間

「隆弘!!」

遠くから俺の名前を呼ぶ声がした。

その声に驚いて俺は声の聞こえたほうを見ると……

息を切らして走ってくる……実彩がいた。

「実彩……?」

真司も驚いた様子で手を止める。

「隆弘……」

そのまま実彩は真司を追い払って俺を見る。

「実彩、なんで……」

そう言いかけた時、俺の思考は止まった。

真司は目を大きく開いて、
杏ちゃんは口に手を当てて俺達を見ている。

「隆弘……隆弘……」

耳元で囁く声が俺の頭の中をぐるぐると回る。

実彩は俺の背中に回している腕に力を込める。

「隆、弘……」

だんだん実彩の声が小さく啜り声となっていく。

「実彩?」

驚いて名前を呼んでみても
実彩は俺をもっと強く抱きしめる。

「隆弘……行かないで……」
「……え?」
「どこにも……行かないで……
行っちゃ、いやぁ……」

実彩は俺の胸に顔をうずめて
ただ俺の身動きを取れないように抱きしめる。

すると実彩が顔をあげて俺をみる。

その顔は、涙で潤んでいて、
俺を誘っているようにしか見えない。

「隆弘……行かないで……
私のそばにいて……お願い……」

そのまま実彩は実彩が持っていた
カフェオレを床に落とし……

俺の肩に手を回して大きく背伸びをしながら
唇に、そっとキスをした……