今日、俺たちは地元の花見会場に来ている。


場所は、彩花の実家の近くにある親水公園。大きくはない公園だけど、思いの外にぎわっている。


出店もあってうまそうなにおいに腹が刺激される。


花より団子な俺をよそに、彩花は桜に夢中だ。


何も話さず時々目を合わせて。俺たちの間には花見会場の喧騒を寄せ付けない、穏やかな空気が流れていた。




そしてなんと彩花は、ご両親を連れて来ているんだ。


やっぱり緊張はしてしまうけど、待ち望んでいた光景に喜びを隠せない。




「青木くん、もう少し彩花の方に寄って!」


俺にそう声をかけたのは彩花の実の母親、由美子さん。


彼女の提案で彩花と桜の木の下で記念撮影をしているのだけど、そんなこと言われてしまうのは中高生じゃあるまいし、少し恥ずかしい。


「青木くんも彩花も顔が固いんじゃないか?」


今度は和彦さん。


そう。彩花がずっととらわれ続けていた義父の和彦さんとの溝が、やっと解決したのだ。


無視しようと思えば無視できた問題。


だけど、彩花と俺が一緒に“輝く未来”を掴むには無視なんかできなくて。


大学を卒業して、地元に戻ってきた彩花は家族3人での話し合いの場を設けた。


俺も一緒にいようか、と言ったのだけれど、彩花は首を横に振った。


『本当は海斗の力を借りたいところだけど、これはわたし自身の問題だから。気持ちだけ受け取っておくね』と彩花らしい返事が来た。