「裕美子(ゆみこ)さんが橘さんと再婚するってなったときは、それはもう親戚中大騒ぎで。

何せ橘さんは裕美子さんよりかなり若いからな」


「そう、だったんですか…」


裕美子さん──彩花の母親は、9年前、彩花が中学2年生だった頃に彩花の義理の父親となる橘和彦(かずひこ)さんと再婚した。


そして、和彦さんは初婚。まだ30代前半。


これだけ条件が揃っていれば、親戚中が騒ぐのも無理はないだろう。


「和彦さんから暴力を受けていたことは、彩花がこっちに来てから知ったんだ。

見た目で人を判断すべきじゃないとはわかっているが、橘さんを見て、悪い予感はしていたんだ。もっと早く気づいてあげたかったよ…」


「俺もです…」


和彦さんには、俺を会わせたくないと嫌がる彩花を説得して、何回か挨拶をしたことがある。


健二さんが言う通り、若いな、という印象を持った。


怪しい雰囲気で、最初は怖いとも思ったが、何回か会ううちにそれは払拭されて、なぜ彩花に暴力をふるったのかを疑問に思うようにさえなっていた。


それでも、彩花が心身共に傷ついたのは事実で。


彩花が初めて和彦さんから暴力を受けたのは高校2年生。


俺が彩花と接点を持てたのは高校3年生。


無理な話ではあるけれど、早く気づいてあげたかった…。


彩花が傷つく前に、笑顔を失う前に、助けてあげたかった…。


「春になれば彩花は実家に戻る。心配だが、彩花ももう大人だし、大丈夫だとは思っている。

ただ…、もしものときはよろしく頼むな、青木くん」


「はい、もちろんです」


義父との問題の解決なしで、俺たちの“輝く未来”はない。


彩花が過去のしがらみから解放されたら、彩花が心の底から笑えるようになったら。


今の俺には、これを願うことしかできない。