「久しぶりって言おうと思ったけど、そうでもないわね」


「…一週間くぶりらい、ですか」


「ふふ、そうね」


駅で里香先輩と落ち合うと、彼女はいつもの赤いルージュを光らせて妖艶に笑った。


良かった。これは、いつも通りの彼女だ。


電話の向こうでの違和感はやっぱり気のせいだったんだ。


それから、イタリアンかフレンチのレストランにでも、と誘われたが、時間があるわけではないから俺が個室の居酒屋を提案してそこへ。




適当に注文をして、酒が運ばれてきたところで、里香先輩が話を切り出した。


「今まで海斗くんにたくさん迷惑かけた。本当にごめんなさい」


唐突に謝ると、里香先輩が深々と頭を下げた。


「ちょ、先輩、頭あげて!」


「許してくれる?」


「と、とりあえず話は聞くから、落ち着いてください」


何について謝罪されているのかわからないのに許すも何もないじゃないか。


それに俺には、里香先輩に謝られる理由に心当たりがない。


一瞬取り乱した里香先輩は、運ばれてきた酒を口に含むと落ち着いたようだった。


「わたしの出身はこっちじゃないって、前に話したよね? 実はわたし、地元に恋人を置いて東京に出てきたの」


里香先輩が地方出身とは聞いたことがあったが、地元に恋人がいたということは初耳だった。


里香先輩が何を言いたいのかがわからず、俺は曖昧に相づちを打つと彼女は話を続けた。


「わたしたちもちょうど、海斗くんと彩花ちゃんみたいな関係だったの。

高校の同級生で、付き合っていくうちに、『この人とはずっと一緒にいるんだろうなぁ』ってなんとなく思ってた」


彼女は懐かしむように語り始めた。