「わたし、海斗の気持ちはわかってるよ? どうして別れを選んだのか…」
頬と鼻を赤く染めて彩花が言った。
赤いのは、寒さのせいか? それとも大きな目に溜めた、涙のせい?
降り続ける雪を見つめる彩花の言葉を待った。
「海斗は…、わたしのことを一番に考えてくれたから、別れを選択したんだよね?」
違うんだ、彩花。
俺は、自分の手でこれ以上彩花を傷つけたくなかったから逃げたんだよ。
弱い男なんだ。
だから、こんな男のためになんか、泣かないで…。
「海斗の愛は痛いほどわたしに伝わってくるよ? けど、海斗はわたしのことを思って離れることを選択する優しい人だから」
「あや、…か?」
目の前にいる彩花がまるで、彩花じゃないみたいだ。
ああそうか、これは夢なんだっけ。
「本当は止めたかったくせに、わたしがN県に行くの」
「…ああ。でもそれは彩花の幸せを願って……」
「わたしの幸せを考えてくれるなら、止めて欲しかった。
わたし、ギリギリまで本当に行くか迷った。海斗のそばにいられるなら、父親からの暴力くらい我慢できると思ってたから」