指摘されて、いよいよ溢れてしまった涙。


なぜ俺が泣いている。


なぜ俺が泣ける。


涙を流す資格なんてないのに。


悪いのは彩花じゃない。


悪いのは、…すべて俺だ。


彩花を裏切り、傷つけた、俺の方だ。


《いつかわたしが『海斗の幸せがわたしの幸せ』って言ったの、覚えてる?》


「…うん」


《すべてはわたしが生んだこの“距離”のせいだって、わかってるの。このままじゃ、海斗は幸せになれない》


俺の心中とは正反対に、ひどく落ち着いて淡々と話す彩花の声を聞いて、心臓が掻き回されたように痛くなった。


俺は誰よりも、君の幸せを願っているから。


だから、俺の幸せなんか二の次でいいんだ。


けれど、君の幸せが俺の幸せである以上、やはりここで決断をしなければならない。


「俺、彩花のことたくさん傷つけた」


《いいの、わたしもたくさん傷つけた。だからおあいこね。でもね、わたしにとって、傷つけるのも傷つけられるのも海斗ひとりなんだよ》


「彩花…」


《ふふ、海斗は頑固者だからなぁ。今更こんなこと言われても、決意を変えたりしないもんね》


ほら、君は。

俺が何を望んでいる知っているから、最後の最後まで笑おうとする。


…決意が、鈍りそうになる。


「ごめん、彩花」


《それは何に対して謝ってる?》


──隣にいられなくて、ごめん。


──彩花を裏切って、ごめん。


──彩花を笑顔にできなくて、ごめん。



「約束、守れなくてごめん」


『必ず迎えに行く』


3年前に誓った約束は、どうやら果たせないみたいだ。


「…別れよう」


「うん」


でもきっとこれは、愛のある決断で。


お互いを傷つけ合うのは、もう終わりにしよう。


「さよならだけど、好きだから」


「うん、俺も」


君以上に愛せる人は、もう二度と俺の前には現れないだろう。