僕は君の名前を呼ぶ



「キャッ…!」


砂に足を取られバランスを崩した彼女。

彼女の半歩後ろにいた俺は大きく踏み込んで体を支えた。


「っと。大丈夫か?」


「ん。ありがと…」


俺はそのまま後ろから彩花ちゃんを抱きしめ首に顔をうずめた。


普段彩花ちゃんからすることのないの香りにドキッとした。


「海斗くん…?」


「何か、香水つけてる?」


「え?うん。それがどうかした?」


「何でもない」


顔が見えないだけで、香りが違うだけで、彩花ちゃんが別人に思ったなんて。


そんなこと、言えるはずがなかった。


「俺…怖いよ……」


俺は彩花ちゃんの首に顔をうずめたまま言った。


「彩花ちゃんが近くにいなくてもやっていけるかわかんねぇ」


最近の俺はそれしか考えられなくて、夜も眠れなかった。