【短編】君の数字




しかし、その時、


「待って」


私は、レイの手首をつかみ、その無線機のスイッチを切った。


「お嬢様、どうしました?」

「あのね……」


私は言った。


「い、いや、その……どうして、レイはそんなにナルシストなの?」

「え?」

「自分のこと……大好きだよね?」

「それは……」


レイは言った。


「何年か前にお嬢様に言われたんですよ……自分を好きになりなさい……って」


だから、とレイは言った。


「私は、自分を好きになるように努力をしました」


レイは、ニッコリと笑った。


「今では自分のことが大好きですよ」

「バカ……」

「え?」

「誰もそこまで好きになれなんて言ってないわよ」

「い、いや、でも……え、えぇ……」


レイは、ポリポリと頭をかきながら悩んでいた。


その姿を見ながら、私はあの時のことを思い返していた。



――
―――
――――


「お嬢様、俺、自分に自信がないんだ」

「どうして? レイ・ジョーナ」

「だって、背も低いし、見た目もかっこよくないし」

「何言ってるの。ダメだよ、そんなこと言っちゃ。自分のことは好きにならなくちゃ」

「え?」

「自分のことは常に大好きでいなくちゃ。そうすれば自分自身がすごく喜んで、もっと魅力ある人になるんだよ」

「ありがとう。俺、自分のことを好きになるように努力するよ」

「うん! 頑張ってね!」


――――
―――
――



あれは、確か12歳の頃。

ぼんやりとではなく、今ならはっきりと思い出すことができる。

自分に自信がなかったレイ。

私は、そういうレイを変えたかったんだ。

でも……

……ったく。

誰が、あそこまで自分を大好きになれって言ったのよ。

バカ。

ほんとにバカなんだから。

でも……

楽しかったな。

あの頃は楽しかったな。

今と違って、お互い身分のことなんか気にしないで、毎日を楽しく過ごすことができたもんな。

王家の娘。

王家に使える者。

そんな垣根は、私たちにはなかったもんな。