「お嬢様、お帰りなさいませ」
いつも通り、そこにはレイがいた。
「あれ? どうかなさいましたか?」
レイは、心配そうに私に声をかけてきた。
おそらく、分かりやすいぐらいに私の顔は雲っていたのだろう。
でも、私はこともあろうか、顔をあげることなく冷たくつぶやいた。
「帰って……」
「え?」
「今日は帰って……」
ホロリ――
私の目から、涙が流れてきた。
今日は、早く1人になりたい。
そういう思いが強かったからなんだ。
「帰ってよ!」
私は、泣きながら声を荒げた。
そして、そのまま校門を飛び出した。
走った。
走った。
行くあてもなく、走った。
本当に、自分で自分が大嫌いだ。
レイは、何も悪くないのに。
私は自分が大嫌いな気持ちを、全く関係のないレイに全てぶちまけてしまった。
「こんな自分……こんな自分なんて……」
私は、袖口で涙を拭っては走り、拭っては走り、家まで帰ろうと必死だった。
そして、いつも通っている横断歩道に差し掛かった。
――すると、その時!
「キャッ!!」
私は、見ていなかった。
信号が赤だったことに。
時、既に遅し。
今の状況を把握した時には、もう目の前に車が迫っていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!!」
あぁ。
もうだめだ。
私は死ぬ。
私は死ぬんだ。
こんな風に、自分を大嫌いなまま死ぬんだ。
あぁ。
でも、これでいいのかな。
どうせ、これからも私はあの数字を見るたびに、相手のことを中身も見ないで判断してしまうんだから。
だから、いい。
これでいいんだ。
1秒にも満たないわずかな時間。
私は、こんなことを思いながら死を覚悟していた。
――そして、次の瞬間!

