【短編】君の数字




や、やだ。

どうしよう。

遠藤くんの制服の匂いや、髪からは整髪料のかすかに甘い香りが、心地よく漂ってくる。


「サヤカ……」


遠藤くんは、私の頬にそっと手を当てて、見つめてくる。


や、やだ。

どうしよう。

これは、誰が見てもあの瞬間だよね。


キス。


絶対そうだよね。

今から、キスをするんだよね。

ど、どうしよう。

私にとっては、ファーストキス。

で、でも、

でも、いい。

遠藤くんなら全然いい。

こんなにも私のことを好きでいてくれる遠藤くんなら、最高に素敵なファーストキスだ。


あぁ、遠藤くんの瞳、すごく綺麗だな。

くっきりとした二重で、まつげもすごく長いな。



「サヤカ……」

「遠藤くん……」



私たちは、数秒間見つめ合っていた。

このあと、どちらともなく目を閉じる。

そして、お互いの顔がもっと近づく。

唇が重なった時、遠藤くんの気持ちが、このキスから伝わってくるだろう。

私に対しての愛情が、唇から唇へスーッと流れ込んでくるだろう。


ここから恋が始まる。

私の恋が始まるんだ。


そう思い、やがて私は、静かに目を閉じようとした。



――しかし、その時!




スパン!




「え!?」


私の脳内に、数字が飛び込んできた。

そう。

遠藤くんの手は、私の頬に触れている。

そして、キスにいくまで見つめ合ったまま、5秒が経過。


「あっ……」


それが意味するものは、相性のチェック。

よって、脳内に数字が浮かび上がってきた。