【短編】君の数字



そして、わずかな沈黙のあと、


「なあ、サヤカ……」


あいかわらず髪をかきながら、遠藤くんがボソッと言った。


「好きだ……」

「え?」

「俺……おまえのことが好きだ」

「え…………?」




その瞬間


空気が変わった




私たちの周りには、誰もいない。

誰もいない下駄箱のすみ。

私と遠藤くんをとりまく空気感は、何か変わり始めていた。

遠くから聞こえる部活の掛け声や、吹奏楽部の楽器の音も、今の私には全く耳に入ってこない。

『おまえのことが好きだ』

この言葉が何回も何回も、頭の中を駆け巡っている。

まるで、今の私と遠藤くんは、2人だけの特別な空間を作っているようだった。

そして遠藤くんは、


「俺、実は……」


その空気感に背中を押されるように、さらに話し始めた。


「おまえのことが、ずっと好きだったんだ……同じクラスになった時から……おまえのことずっと見てたんだ」


でも、と遠藤くんは言った。


「最近、おまえに彼氏がいるんじゃないかっていう噂が流れてきて、いてもたってもいられなくなって……だから、今日、自分の気持ちを言おうと思って…………なあ、サヤカ……」

「は、はい!」

「俺は……」


遠藤くんは、さらに力強く念を押すように言った。



「おまえが好きだ」



……!!



私は、遠藤くんを見つめたまま、固まってしまった。

そして、胸の鼓動がどんどん早くなる。

早くなる。

早くなる。

ど、どうしよう。

嬉しい。

嬉しいんだけど、急なことで心の整理が全くできていないよ。


「サヤカ……」


ギュッ。


え!?

う、嘘!?


遠藤くんは、そっと練習用具の入ったボストンバッグを床に置くと、私をやさしく抱きしめた。