【短編】君の数字



「え……?」


その時の私は考え事をしていたために、信号をちゃんと見ていなかった。

そう。

青から、ちょうど赤に変わっていた。


――え!!!???



「キャァァァァァァァァ!!!!」



私がそれに気づいて叫んだ時には、もう車が目の前だった。

足が、アスファルトに張り付いたように動けない。

私の体は、接着剤をかけられたように硬直していた。


ダメだ!!

ひかれる!!!


私は覚悟した。

死ぬかもしれない。

そう覚悟した。



――すると、その時。



「危なぁぁぁぁぁい!!!!!」



え!?

え!!??


一瞬、何がおこったのか理解できなかった。

それは、突然の出来事。

フワッと宙に浮くような感覚。

誰かが飛び込んで私を抱きかかえ、歩道の隅の安全な場所に避難させてくれていた。



へ……?

だ、誰……?



気づけば、私は、たくましく温かい腕の中に身をゆだねていた。

その腕は、誰がどう見ても、男の人の腕だった。


「大丈夫ですか? お嬢様?」


男の人は、私にやさしく微笑みかけてきた。


「ふぁ、ふぁい、だ、大丈夫れす……あ、あの、ど、どうみょ、ありがとうございました……」


プルプル。

プルプル。


私の声は、少し震えていた。


ドキドキ。

ドキドキ。


そしてどうやら、かなりドキドキしている模様。

理由は2つ。

1つは、死ぬかもしれないという恐怖を味わった直後だから。

そして、もう1つは、この男の人が目の前にいるから。


ドキドキ。

ドキドキ。


そう。

この人は、とても私のタイプだった。


ドキドキ。

ドキドキ。



ど真ん中ストライクのイケメンだった。