「簡易ベッドを用意してあげたんだけどまったく使ってないみたい。いつも夜通しベッド脇に座っているらしいわ」

篠崎が大きなため息をつく。紫音は華の血の気の失せた頬に軽く触れ、ほつれた髪を後ろへやった。
華は特別室の隣の個室で点滴を受けながら昏々と眠っていた。

「今日はこちらで休ませてもらえるかしら」

「大丈夫よ。今のところ空きベッドの余裕はあるから」

「ありがとう。本当に助かるわ」
「…やっぱりあの夢の中に行くのは、かなり体に負担がかかるようね」

篠崎は体温計をしまいつつ華の脈を取り、クリップで挟んだ記録紙に書き込む。

「そうね…。でもやめろとはいえないわ」

「わかるけど。これは私の想像なんだけど、あの夢は、華さんの何らかのエネルギーのようなものを消費しながら存在していると思う。普通の人だって頭を使えば疲れてくる。脳って一番エネルギーを必要とするところなのよ。それを二人分使っているとしたら、消耗は激しくなって当然。まして華さんはここ数日ゆっくり食べたり休んだりしていないでしょう。このままだと華さんまで共倒れになってしまうんじゃないか、心配だわ」

「痩せてきているのよ、華ちゃん」

「ええ…。体の疲労もピークだと思うわ」

「とりあえずはこれで強制的に休ませられるわね。私今夜は来れないから、華ちゃんにはお友達の愛季さんに来てもらうようにするわ」

「紫音こそ、大丈夫?」

「私はちゃんと食べて眠っているから」

紫音は肩をすくめた。篠崎の頬にえくぼが浮かぶ。
その横で華は何の夢も見ずに、ただ深い眠りの中にいた。