「…紫音に会ったら、すぐに見てもらえ」

華はこくりとうなずいた。

「もしここが実在するとなれば…。月下美人の対策も立てられるな」

「月下美人? …の対策って?」
「紫音に伝言を頼む。すぐには動けないが、何とかして出来る限りの手は打つ。もしかしたら月下美人の管理を任せるかもしれない、と言っておいてくれ」

「え? あ…うん。私、何がなんだかよくわかっていないんだけど」

「大丈夫だ。俺がなんとかする」
悠河はいつもの自信溢れる眼差しで言う。
最初に自分が来た時はあんなに不安そうでイライラしていた悠河が、いつもの悠河に戻った。自分が少しでも役になったような気がして華はうれしい。

華は微笑みを浮かべ、悠河を見上げる。
その時、華の背中が背後からぐっと引かれた。

「あ、なんか、変」

「どうした?」

「引っ張られる」

「華!」

「悠河! 私、また来るから! 絶対に!」

「ああ」

「待ってて!!」

悠河は少しずつ色合いを薄める華の手を掴む。華は悠河の瞳をじっと見つめる。
悠河が自分を愛していると言ってくれた。信じられないくらいの幸せを感じることができた。幸せを知った後の哀しみがこんなにつらいなんて。きっとまた来る。絶対に。


夕闇が少し濃さを増す。何かが背中を強く引っぱる。華はそれを振り切るように悠河の両肩に手を伸ばし背伸びをした。


――待って、待って。もう少しだけ。


華は悠河の唇に自分の唇を合わせる。一瞬の淡い感触。華の両頬に涙がこぼれる。
その残像を残して華は悠河の前から消えた。