ガチャン



先刻より幾分か小さい、ドアの開閉音。
そんなことに気を使えるなら、もっと初めから・・・と頭の中で阿久津に対する文句は膨らむ一方だ。


・・・・・はぁ、


頭の中で、小さく溜め息を溢した。
目の前には、俯いたままの冴木のきれいな旋毛。

今更ながら僕達は、二人きりになってしまったのだ。
まぁ、冴木と生徒会室で二人きりになるというのは、よくあることだけど。
事情が違うと教室の雰囲気はこうも変わって見えるのか。

いつもはもう少し、居心地が良かった気がする。

少なくとも、阿久津や福澤より話は通じるし、一緒にいて面倒だと感じたこともない。
彼女と二人の時間は、わりと、好きだったのかもしれない。


だけど今は、やっぱりいつもと違う。
それは、彼女の気持ちを知ってしまったからだろうし、彼女が見たこともない顔をして俯いて黙りこけるからだろうし、僕の彼女に対する感情が、ほんの少し、揺らいだからだろう。
なんて、うっかりそんなことを考えてしまったが、訂正。
最後の、「揺らいだ」というのは、きっと何かの気のせいだ。
「揺らいだ、気がした」だけだ。




「・・・・会長」



ようやく彼女は、顔こそ上げないものの、口を開いた。
いつも通り、芯の通った声で、いつも通りに僕を呼ぶ。
今気付いたけれど、彼女の声は酷く、耳馴染みが良い。
好きな声とまでは言わないが、呼ばれて、返事をするのが億劫だと感じさせない程度には、良い声だ。と思う。



「ん」



急に呼ばれたからか、そんな気の抜けた声しか出なかったが、まぁ致し方ない。
何の気なしに膝の上に置いていた手のやり場に困って、僕は、机の上で組んでおくことにした。
体が強張っているのというのは、自分自身が一番把握している。
重ねた手のひらは、僅かに湿っていた。
少し、汗をかいているようだ。
冬なのに変だ、と思った。




「私、会長が好きです」




自分の手元に置かれていた視線を少し上に動かすと、真っ直ぐに僕を見る彼女の真っ赤な顔が映った。
この、酷く耳馴染みの良い声が、まさか僕の鼓動を速める日が来ようとは、予想外も良いところだ。


そう。


僕は彼女を前に、酷く焦っていた。
それはもう、認めざるおえないほどに。