「どうした、どこか寄るところがあるのか?」

「いえっ、あの私はいつ
 ケイジさんの親御さんや奥様に
 ご挨拶に伺えばいいですか?」


貴方が私の家族に結婚の挨拶をしてくれたように私もお墓の前できちんと挨拶がしたい。

井原家の家族の一員になることをお父様はもちろん、奥様に許してもらえるかはわからないけれど……


「ああ、そうだったな
 大切なことを忘れるところだった」


前方、フロントガラスの向こう側に広がる青空を見つめ、貴方は言う。


「これから行くか、どう?」

「はい、是非」


現実に会う事はできないけれど、私はその時を前にとても緊張していた。


ここは、井原家の墓所の前----

お花屋さんに立ち寄って買った白いユリの花を墓前に供える、京次さん。


「絢、君の好きなユリの花
 この時期にも置いてあったぞ

 どうだ、満足だろう?」


お墓に優しく触れ話しかける京次さんの姿に、今も奥様をとても大切に想っている事が分かる。

そして、貴方はその場にしゃがみ込むとお墓の傍へと唇を寄せて内緒話をするようにこっそりと優しい声で語り掛けた。


「親父に絢
 俺、再婚することにしたよ」