深海魚Lover

貴方はサッと私の隣に立つと背を屈め、私の耳元でひそひそ話をするようにこっそりと囁いた。

「わかるまで……」

「えっ!」

京次さんは食器の乗ったお盆を持つとキッチンへと消えて行った。

『わかるまで

 今夜は眠れないぜ』

艶めく貴方の声はとても甘く、耳に残り、私の心をとらえて離さない。

私は今宵、色めく世界へと誘われていく。

私の知らない私が、貴方の腕の中でだけ目覚める----


この後にある二人だけの甘い時間、そのことを考えながらニンマリしちゃう私に感じる強い目線。

何もおかしなことがないのに手元を見つめて一人微笑んでいる。

そんな異様さ満点の私に目力ビームを飛ばす潤司君は、どう対処すべきか困ってるご様子。

「ジュン君、何でもないのよ
 ただの思い出し笑い」

布巾でテーブルを拭く私に聞こえる水の音。

キッチンのシンクの前で袖を捲った京次さんの手が水に濡れる。