深海魚Lover

キッチンの方からひょこっと顔を出すのは、芽衣子。

「ケイジさん
 すぐご飯にしますね」

「ああ、着替えて来るよ」

着替えに向かう途中、俺は絢の部屋に立ち寄る。

人の居ない、暗い部屋----

部屋の明かりを点けると息を吹き返したように林檎は赤く照り、この目に飛び込んで来てはその存在を知らしめる。


全てのものに見つめてほしい。

わたしだけを見つめてほしい。

さあ、その手に取って見て、そして甘い実を唇に……


そう君が何度と望んでも、俺はこの手に林檎を決して持つことはしない。

写真の中の君はずっと永遠に変わらない、俺達の妹。

「絢、ただいま」

君は、妹----それ以上でもそれ以下でもない。