深海魚Lover

貴女は泣き顔を隠すことはなく、満面の笑みを浮かべて私の元へとやって来る。

「…………
 あのぅ、ケイジさん
 聞いてます?」

「ああ、お帰りなさいの
 キスがしたいって話?
 それなら……」

「ちっ違いますよ!
 
 何言ってるんですか」

「なんだぁ違うの?」

「いえっ

 違いませんよ!」

「どっちだ?」

「じゃあ
 ほっぺたにください」

「お安い御用だ」

前屈みになり、貴女の柔らかな頬に、ただいまのキスを贈る。

照れて染まる貴女の頬……

「メイちゃん

 ママのリンゴ、たべてもいい?」

絢の部屋から出て来た潤司の、その小さな手の中に在る林檎と同じ色。

真っ赤色の頬。


貴女の前で、俺は俺自身が知りはしない俺になる。

「ダメよ

 お供えしたばかりなの

 こっちに新しいのが……」

二人は、仲よく室内へと入って行く。

その場に一人残された、京次の独り言。

「出雲

 おまえもそうだろう?」