深海魚Lover

出雲さんの後に次いで家を出た私は、颯爽と帰って行く彼の後姿を見つめていた。

一度も後ろを振り返ることのない彼の背中を……


出雲さんが何を想って、何の用があってこの場所に来たのか私には分からない。

ただ、彼の寂しげな声が耳元に残るだけ。


-----ちょうど、その頃。

停車した車内は、真っ黒。

出雲が家を出て帰って行く姿が京次の目に留まった。

「あっ、アニキだ!」

「ジュンジ」

京次は、車のドアに手をかける潤司に向かって首を左右に振ってみせる。

「あっ、こんどはメイちゃんだ

 キョンさん、でちゃだめ?」

「まだだ」

出雲の背を見送る芽衣子の姿……

そして、ゆっくりと閉まってゆく引き戸。


これに似た光景を遠い昔、俺は見たような気がする。

だけどひとつだけ違うのは、貴女はその手で涙を拭わない。

『イズモの

 出雲のバカ野郎!』

そう出雲のことを悲しく罵りはしない。