深海魚Lover

「アニキッ、俺の話を……」

「話すことなんてねえよ」


歩き出す出雲の背中に向かって充は叫んだ。


「カシラッ!

 貴方はいつも何考えてるんすか?
 
 本当に組のことどうでもいいっすか?
 だったら俺はガッカリです」


充の言葉に一瞬歩む足を止めた出雲だったが、振り向かずそのまま何も言わずに歩いて行く。


「カシラ、俺は貴方がわからないっす」


人混みに消えてゆく寂しげなその背中を、ただ見つめているしかない。


『じゅん
 今度こそ、家を出ようか?』

『じゃあ、イズモもやめなよ

 危ないの嫌だよ』

『イズモ

 きて、はやく

 キョンさん、とめて……』


出雲は思い出したくない過去を思い出し、拳を握りしめた。

ある日の絶望を決して忘れる事の無いように体に刻み込んだ。

着ているジャケットの中に右手を忍ばせた出雲は、シャツの上からそっと刺青に触れる。