僕のonly princess



「あら、薫。帰ってたの。もうすぐお父さん達も帰ってくるそうだから着替えてきなさい」


佐知と同じようにキッチンから出てきた母さんの言葉に返事をして、俺は一旦、自分の部屋に戻った。


リビングを出る時、また部屋の中を走り回っていた理子ちゃんが佐知にさっきよりも少しキツく怒られている姿が見えた。
ちょっと不貞腐れたように唇を尖らせる理子ちゃんの横顔に、俺は笑顔になるのを自覚しながらリビングのドアを閉めた。


なんだろう。
こんなにも心が穏やかで、自分で戸惑うほど想像していたものと違う。


あんなに佐知を見るのが辛かったのに。
あんなに幸せそうな佐知を見るのが怖かったのに。


一瞬、襲った嫌な心の波もさっと消えて、今俺の中にあるのは穏やかな感情だけ。


あんなに怖がっていたのが馬鹿らしくなるくらい、波風の立たない心に驚くしかない。


でも、ホッとしている。
今の俺なら佐知を悲しませなくて済む。
きっと、もう俺のせいで佐知の悲しい顔を見ることはないだろうと不思議とそう思えた。