「帰国するってことは、旅行?それとも……」


「結婚して海外赴任している旦那さんと一緒にアメリカに住んでるんだ」


「そうなんだ。海外赴任なんてすごいね。でもそれじゃあお姉さんになかなか会えなくて、薫くんは寂しいね」


「……え?」


優しい笑顔で言われた言葉に俺は思わず動きを止めてしまった。


佐知に会えなくて寂しい……


確かに寂しい気持ちはあるけど、それよりも俺の中にあるのは佐知に会ってまた心が乱れることへの不安。
佐知の幸せを目にした時に俺自身がどうなってしまうのだろうという不安。
そのことで佐知を悲しませることへの不安。


それが俺の憂鬱の原因だ。


でもさすがにそんなことを結花ちゃんに話すわけにもいかないから、俺は手元のコーヒーに視線を落としながら、誤魔化すように笑った。


「そうだね……」


不自然な俺の態度に結花ちゃんが心配そうな顔をしていたことに、俯いていた俺は気付かなかった。


「でもどうして面倒なの?久しぶりにお姉さんに会えるのは嬉しくない?」


「……まあ、嬉しい…かな。でも1歳になる姉の子供も一緒だし、あんまり子供と接したことがないから不安…かな」


佐知には1歳になる娘がいる。
その子が不安の種だと、言い訳を誤魔化すと結花ちゃんは「大丈夫だよ」とにっこりと笑った。