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「……はぁ」


この溜息は結花ちゃんじゃなくて、俺のもの。
数日前からとうとう訪れる今日という日に色んな不安が圧し掛かっていた。


今日は………佐知が帰国する日。


朝、学校へ行く俺に母さんがきっちり約束をさせられてきた。


「今日は佐知が帰ってくるんだから、遅くならないうちに帰ってきなさい。夕食は佐知達も一緒にみんなで食べるんだからね」


「……わかった」


それだけ答えて俺は更に重たくなった気持ちを抱えて登校した。


放課後、家に帰る前にどうしても会いたくて、結花ちゃんとカフェでお茶をしていた。
いつものように向かい合って座って、お互いの飲み物と半分こするケーキを注文した俺は冒頭の大きな溜息を洩らした。


「薫くん、どうしたの?」


「ん?あぁ……ごめんね。ちょっとこの後面倒なことがあって」


俺の溜息を心配してくれる結花ちゃんは、キョトンと首を傾げて俺を見る。
そんな仕草一つ、可愛らしくて俺は自然と口角が上がった。


「姉がね、今日帰国するんだ」


「お姉さん?薫くん、お姉さんがいたんだ」


少し驚いた顔の結花ちゃんに苦笑いして頷きながら、俺は自分で発した言葉に内心不思議だった。
今までその存在さえ、誰にも佐知のことを話そうなんて気が起きなかったのに、結花ちゃんには何も考えずに話していた。