「結花。驚かせてごめんね。結花に本郷さんと話をしてほしかったんだ」


「……は、なし?」


敷かれた絨毯に跪いて薫くんは真剣な顔で私と目を合わせた。
震える声で私が訊き返すと、薫くんはゆっくりと頷いて私の手をギュッと握った。


「結花は本郷さんのことを本心では拒否なんてしていない。本当は結花も本郷さんとちゃんと向き合わなきゃいけないって思っているんだろ?」


私の心を見透かした薫くんの言葉に私はどう答えていいのかわからない。


本郷さんと向き合う……私にそんなことができる?


だって……これ以上、本郷さんとママとのことを知るのは怖い。
二人を引き裂いたのは私だと思ってしまうことが……怖いんだ。


「怖がることなんて何もないよ。これは幸せの一歩だって言っただろ?結花が怖がるようなことにはならない」


跪いたまま俯く私の瞳を優しく見つめる薫くんは、震える私の心を宥めるように微笑む。
薫くんの私を包み込むようなその雰囲気に私は迷いながらも、小さく頷いた。


本郷さんの話を聞くのは怖いけれど、薫くんが私を想って行動してくれているのは私にも伝わってくる。
薫くんが『幸せの一歩』だというのなら、それを信じてみたいと思った。