だけど薫くんの私に向ける瞳は明らかに興味のない他人を見るものだった。
なのに結花を見つめる瞳はとても優しくて、彼の心の熱さえも宿すような瞳で。
薫くんが結花を本当に好きなんだということは、痛いくらい伝わってきた。


薫くんから牽制するように『俺の大切な子だから、仲良くしてあげて』と言われて、私は悔しさに唇を噛み締めた。


どうして結花よりも先に薫くんに出逢えなかったの?
そうしていたら私をこんな風に熱い瞳で見つめてくれていたかもしれないのに。


一人で帰る電車の中で、私はそんな醜い気持ちでいっぱいになった。


翌朝、目の前の席に座る結花に宣戦布告するように薫くんへの気持ちを伝えた。


驚いて戸惑う結花の顔を見ていると、なんだかとてもイライラした。
どうして何も言い返さないの?
自分の彼氏のことを好きだと言って、奪おうとさえ思っている私に結花がどうして何も言わずに悲しそうな顔をしているのか、私には理解できなかった。


自分から結花には私の気持ちを止める権利がないと言ったことを棚に上げて、私は何も言わない結花に苛立って、それなら本気で薫くんを手に入れてみせると思った。


せっかくできた友達をそんな風に自分でなくすようなことをした私は、結局、誰とも仲良くなることはなく、一人で過ごしていた。
元々結花も一緒にいる友達がいないらしく、彼女も私と同じように一人だった。
そんな結花を見ると、チクッと心が痛くなったけれど、私はその痛みに気付かない振りをした。


あんなにはっきりと牽制された薫くんにどうやって近づこうかと考えていた私は、偶然聞こえてきた声に廊下で足を止めた。


そこは同じ3年生の別のクラスの教室。
中から聞こえてくるのは嫌味な声で噂話をする子達の声。
普段なら軽蔑すら覚えるようなその話に、私は思わず教室のドアを開けていた。


「その結花の話、もっと私にも聞かせてくれない?」




*エミリside end*