「だからね、あっちに戻る前に家族で楽しもうってことになって」


「だったら友達とか呼ばない方がいいんじゃないの?」


「そんなことないわ。人数か多い方が楽しいし。それに……向こうに戻る前に薫の可愛い初恋の彼女にも会っておきたいから」


「へ?……結花も呼ぶの?」


ニヤッと口角を上げた佐知に俺は間抜けな驚きの声を上げた。
佐知は当然とばかりに頷いている。


「ぜひ結花ちゃんに会ってみたいわ」


悪魔の……いや、満面の笑みでそう言った佐知に逆らえるはずもなく。
俺は結花を誘うことを約束させられた。


でも、よかったのかもしれない。
あんなことがあったせいで、結花にどう連絡していいかわからなくなっていたけれど、バーベキューに誘うっていう口実があれば、連絡もしやすい。


それにこのまま気まずくなってしまうのは絶対に嫌だったから。
せっかく結花とまた付き合えるようになったのに、前みたいにすれ違うなんてごめんだ。


とは言え、電話をする勇気が出なかった俺は結局、メールで結花を週末のバーベキューに誘った。
こういうところが情けないんだと自分でもわかっているけど、万が一、ホームで拒否されたみたいに電話で直接NOと言われたらと思うと、メールに逃げてしまった。


“自然に”を心掛けて何度も書き直して送ったメールに返ってきた結花の返事は、YESで俺は大袈裟なくらいホッとした。
『楽しみにしてる』という結花のメールを何度も確認して、俺はグチャグチャだった気持ちが少しだけ軽くなった気がした。


結花が倉石くんのことをどう思っているか、わからないけど。
結花は俺を好きだと言ってくれたから。
俺もどうしようもないくらい結花が好きで、彼女を手放すなんて出来ないから。
こんなことくらいじゃ、諦めない。


いつか結花からすべて話してくれる時まで、ちゃんと待つよ。
だから、……俺から離れて行かないで、結花。



*薫side end*