薫くんと別の線の電車に乗って、水族館へ到着するとさすがに夏休みだからか、家族連れやカップルでいっぱいだった。
薫くんが先に用意してくれていたというチケットで建物の中に入ると、外の空間とはまったく違う別世界が広がっていた。
青く染まった空間。
入口のすぐ目の前に大きく広がる水中。
照明の落とされたその場所はエアコンがよく効いているせいなのか、それともこの青い世界のせいなのかとてもひんやりとしていて。
でもそれは嫌な感じじゃなくて、すごく神秘的な気持ちになれる場所だった。
そう、私が水族館に来たのは実はこれが初めて。
子供の頃、友達の話を聞いて行ってみたいと思っていたけれど、忙しかった母に連れて行ってほしいと強請ることはできなくて。
母が亡くなった後も来る機会なんてなかったから、水族館は憧れだった。
「結花?」
ボーっと目の前の大きな一面に広がる水槽に目を奪われている私に薫くんが心配そうに声を掛けてくれる。
朝、駅のホームで会った時から離されることのない手。
ひんやりとした室内に外気で火照った体はすっかり熱を奪われていたけれど、繋がれた手は温かくて。
ずっと来たかったこの場所に今、薫くんといるんだってことが実感できて、私はなぜだか涙が出そうなほど嬉しくなった。
それでも泣くなんておかしいから、私は涙を流す代わりに心配そうに顔を覗き込んでくれる薫くんに精いっぱい笑いかけて首を小さく横に振った。
「あんまり綺麗だからびっくりしちゃっただけ」
そう言う私に薫くんは首を傾げて少し不思議そうな顔をした。
「結花、水族館に来たのは初めて?」
「……うん」
やっぱり初めてなんて珍しいのかなと思って、小さく頷くと薫くんは「そっか」と笑ってくれた。
「じゃあ、初めての水族館を俺と一緒にいっぱい楽しもうよ!」
「うん!」
笑顔でそう言ってくれる薫くんの気持ちが嬉しくて、私も笑顔で大きく頷いた。

