俺の声が届いたのか、結花はピタリと足を止めて人混みの中の俺に気付いて大きな瞳を見開いた。
俺は人波を掻き分けるようにして、呆然と立ち止まる結花の元に駆け寄った。
そして、そのままの勢いで乱暴に彼女の細い肩を抱き締めた。
「ゆ、いか……」
走っていたせいで呼吸が乱れてうまく声が出せない。
それでも俺の腕の中いるのが俺の求めている女(ひと)なのだと実感したくて、掠れる声で結花の名前を呼んだ。
俺の腕の中で固まっていた結花がピクッと肩を震わせた。
「結花……」
絶対に離さないと抱き締める腕に力を込めて、俺はもう一度、愛しくて堪らないその名前を呼ぶ。
それに少しだけ顔を上げた結花は大きく見開いたままの瞳で俺を見つめる。
俺が突然現れたことになのか、それともいつもと違う呼び方になのか。
戸惑いの表情で俺を見つめ続ける。
道の真ん中で女の子を抱き締める俺と、抱き締められている結花を通り過ぎていく人達は好奇の視線を向けてくるけど、そんなものはまったく気にならない。
今、俺の心を占めているのはやっと会えたこの愛しい女(ひと)だけ。
零れ落ちるように急に、俺の前から消えてしまったあの瞬間が脳裏に浮かんできて、俺は戸惑いを見せる結花の背中に回す腕に力が増す。
「やっと……捕まえた。もう俺から逃げないで。……結花が…好きなんだ」
「―――――っ!?」
俺を見つめていた瞳が、更に大きく見開かれて結花は息を呑んだ。

