そんな風に心の中で自分自身の鈍さに呆れていると、吾郎がクスッと小さく笑った。
「薫ってさ、俺達よりずっと大人で何でも卒なく熟していつも余裕そうなのに、今は全然違うんだな。それってやっぱり相手の子のことを本気で好きだからだよな」
勝手に俺のことを分析する吾郎は、嬉しそうにニコニコと顔を緩ませている。
どうして吾郎がこんなに嬉しそうなのかよくわからないけど、それでも自分のことのように俺の変化に喜んでくれる姿は俺も嬉しくて、くすぐったい気持ちになった。
「ねぇ、吾郎のキヨ先生に対する“好き”って気持ちはどんな風?」
「……へ?」
唐突な俺の質問に吾郎は目を丸くして、なぜか顔を真っ赤にさせた。
「な、なんだよ。急に」
慌てて真っ赤な顔をキョロキョロさせる吾郎は余裕なんてゼロで。
さっきまでのニコニコ笑顔は、照れてるせいで焦り顔だ。
「本気で人を好きになるってどんな気持ちなのかなって」
「は?」
質問した意図を伝えると、薫は不思議そうに首を傾げた。
佐知は俺の結花ちゃんへの気持ちを初恋だと言った。
だけど、俺は佐知のことを姉としてではなく、一人の女として好きだと思っていたんだ。
何年もその想いに心が闇に覆われるほど、固執していた。
佐知のことを想うと、ただ胸が痛くて苦しくて堪らなかった。
そんな想いが“好き”という感情の形なのだと、ずっと思ってきたのに。
結花ちゃんへの気持ちはそれとはまったく違った。

