プレアデス国王は王妃の突然の入室に驚きを隠せない。だって王妃は,美しい藍色の瞳に王妃としてのプライドと母としての強さが燃えたぎり,顔にはいつもの優しい微笑みがなかったから。

「国王陛下。ソフィア王女の縁談についてですが,どうして王妃のわたくしに少しも相談なさらなかったのでございますか!?そして,少しはルナのこともお考えになってくださいまし!!」

挨拶もそこそこにアクア王妃は本題に斬り込んだ。普段見せない王妃の迫力に流石に国王も逆らえなかった。

「ソフィア王女の縁談については…わ…私が悪かった。…しかし,な…なぜにルナが出てくるのかね?」

「わたくしはルナの気持ちをお考えになれと申し上げておりますのよ!!ルナは隠された存在ゆえ,想う殿方にも想いを伝えられず苦しんでいますのよ!?ルナは隠された存在とはいえ,いやしくも国王陛下の娘です!どうして陛下からお言葉を掛けて差し上げないのですか!?わたくしたちの娘はソフィアだけではございませんのよ!!」

キッとまくし上げる王妃。しかし,政務の間の入り口で秘かに話を聞いていた者が1人。ソフィア王女だった。しかし,話を聞いていたが,意味がわからなかった。

‐子どもは私1人ではない…ですって!?どういうことかしら…?まさかルナが出てくるなんて…。まぁ,いいわ。あとでお母さま付きのイサベル女官長に聞いてみましょう‐


…プレアデス国王の居間…
‐ルナ王女…か。そういえば,そんな娘がいたな。もう16年前のことだ。生まれたばかりのルナ王女を王妃付きの女官エレオノーラに託したのだったな…。ルナからしたら,私は酷い父親だったかもしれない。しかし,ルナがユリジュスを想っていたとは思わなかった…。‐

国王は葡萄酒の入ったグラスを揺らしながら,ルナの生まれた日のことを思い出していた。あれから,ソフィア王女のことばかりを可愛がっていた。ルナ王女のことを顧みることはなかった。
14年ぶりに見たルナ王女はどこか冷ややかな雰囲気を纏っていた。王妃は敏感にそれを感じとっていたのだろう。だから,今日物凄い剣幕でまくし立てていたのだろう。ルナ王女からしてみたら,本当に酷い父親だ。そう思われても仕方がないと思っている。



ソフィア王女はさっきの両親のやりとりを思い出していた。いつもだったら,母と一緒にお茶の時間なのだが,今日はそのお茶の時間を上の空で過ごしていた。
お取り巻きの令嬢たちの話も右から左に流していた。
なにをしても上の空。気になりすぎてどうしようもない。思いきって母に聞こうと思い,ソフィアは着替え始めた。


「アクア王妃さま,ソフィア王女さまがおいでです。いかがいたしましょう?」

「通しなさい」

‐ソフィア…いきなりどうしたのかしら?なんだか珍しいわね。ソフィアからわたくしを訪ねてくるなんて‐

王妃はソフィアの突然の入室に驚きながらもソフィアを部屋に通した。

「どうなさったの?ソフィア王女。あなたからわたくしを訪ねてくるなんて」

アクア王妃は優しく微笑みながらソフィアに話掛けた。しかし,ソフィアの表情は思い詰めたままだった。

「お母さま…。私に双子のお姉さまがいらっしゃるって本当なのですか?私,お父さまとお母さまの話しているところを聞いてしまいましたの。お父さまとお母さまは私になにか隠していらっしゃるわ」

「な…なにを馬鹿なことを…。わたくしたちはなにもあなたに隠し事などしてはいません。わたくしたちの娘はあなた1人だけですよ」


アクア王妃は明らかに動揺していた。今まで嘘などついたことがなかったから。

‐ダメだわ…。隠し通せない…。でも,これ以上黙っているなんてわたくしには耐えられない…!!でも,どうしましょう…!?‐

「お母さま?どうなさいましたの?どこかお加減でもよろしくないのですか?」

「たいしたことはありませんよ。ソフィア。聞きたかったことはそれだけですか?」

「ええ。では私はこれで失礼しますわ。おやすみなさい」

「おやすみなさい。ソフィア」


やはり,アクア王妃の言っていることは腑に落ちない。絶対になにかある。イサベル女官長に聞いてみようと思いながら,ベッドに身を沈めた。