でも。

森崎くんには、もう会えなかった。



彼が転校したんだって聞いたのは。
冬休みも明けて、2月になろうとしている日だった。


それを聞いたのは、あの「なるみちゃん」だった。


誰もいない美術室にいたあたしの前に現れたのは、なるみちゃんだった。



「横山さん?」



そう言って、ニコリと微笑んだ彼女。

可愛くて、その笑顔を見ただけで「ああこの子、いい子だな」ってそう思った。




「葉ってバカだよね。自分の好きな事の為に、さっさと自分の道行っちゃうんだもん。他の誰も連れて行かず、さっさと自分だけで」

「……」

「卒業式くらい、出れたらよかったのに……」


そう言ったなるみちゃんは、窓際に佇んでいたあたしの隣に立って、そっと窓を開けた。


開け放った窓からは、肌を刺すそうな空気が美術室の空気をふわりとかき混ぜて。

その油絵の匂いをあたしに運んだ。


油絵の匂い。
森崎くんの、匂い。




もう、会えないんだ……。


ちゃんと言ってあげられなかった、あたしの想い。





―――その想いが溢れるように、頬に一滴の涙が零れた。