あたしと森崎くんの距離が、ほんの少し縮まった、そんな瞬間だった。
それから、あたしの”森崎探し”はまた始まった。
と、言っても。
彼がいるのは、あの旧校舎の裏庭だけになって、あたしは迷わずにそこに行くことが出来た。
相変わらず、四つん這いになって植木をくぐって行くとヘッドホンで音楽を聴きながら寝っころがっていたり、小さなノートに草花を描いていたり。
あたしはそんな森崎くんの隣に座って、ただ同じ時間を過ごしていた。
それだけで、幸せだったんだ。
12月になって寒さをしのぐ為にあたし達が会うようになっていたのは、森崎くんのテリトリー。
美術室だった。
そして、もう年の瀬も迫っていた、ある日のお昼休。
森崎くんが大きなスケッチブックをもってあたしに言った。
「え、モデル?」
「うん」
目を見開いたあたしに、森崎くんはなんてことないって感じで頷いた。
「も、ももも、ももも、モデルうぅぅ!!!?」
「? うん。ほら、そこ座って」
グイグイと手を引かれ、窓際の椅子に座らされた。
同じように座ってデッサンを始めた森崎くんを茫然と眺め、ハッと我に返る。
「むっ、無理無理無理無理!モデルなんて絶対無理っ!そ、それにそんな良い体してないし!」
ブンブンと両手を突き出して、ついでに首も振った。



