あっ・・雪だ・・・」
夕方から降り始めた小雨はいつの間にか小雪に変わっていた。
僕と今日子がこのホームのベンチに腰掛けていったいどのくらいの時間が過ぎ・・そして何本の電車が通り過ぎたのだろう・・・
「まもなく、熱海行きの電車が到着いたします。なお、今度の電車が本日の最終電車となりますのでなにとぞ、お乗り忘れのないようにお願い申し上げます」
駅員のそんな最終電車の到着を告げるアナウンスが終わると今日子は静かに立ち上がった・・・
僕は、今、彼女に言うべき言葉を必死に探していた・・・
「すまない・・僕が悪かった・・」
心の中では簡単に言える言葉がどうしても口から出てこない。
僕は何も言えずにただ、今日子の後ろ姿を見つめていた。
まもなく、ホームに最終電車が入ってきた・・
今日子は、まるで僕の言葉の無さに痺れを切らしたようにゆっくりと振り返る。
そして、今まで僕が見たことないような冷たい目をしながら言った・・・
「私はあなたと出会ってから今、この瞬間まで一度も・・・
あなたを愛してると思ったことなんか無いよ・・・だから、あなたと別れても何一つ寂びしいことなんか無いのよ・・」と
今日子がそう言い終わるのを待っていたかのように・・
静かに最終電車のドアがしまる・・そして、今日子は去って行った。
僕は泣いていた・・・僕が悪いのに・・どんなに悔やんでも仕方が無いのに・・
僕は消えていく電車を見つめながら、泣いていた・・
「お客さん・・もうすぐ、駅のシャッターが下りますので・・」
駅員はそう言いながら少しだけ僕を哀れそうに見つめていた。
駅前のタクシー乗り場には乗り越した乗客達がタクシー待ちの長い列を作っていた。
僕は一度だけ深い深呼吸をする・・・
「歩くか・・家まで・・・」
そう呟くとゆっくりと歩き出した・・・・
僕と今日子が出会って2年の月日が過ぎようとしていた。
出会いと別れは常にセットだと誰かが言っていた・・・
出会いがあるという事は・・必然的に別れがついて来ると言う意味なのか?
僕は小雪が降りしきる夜の街を歩きながら・・・
今日子と出会ったころの事を思い出していた・・・