そのあと、いつもの場所で拓巳に会った。
「…拓巳?…あたしも拓巳が多分好き。でも、拓巳はあたしに隠していることがあるから…付き合えない。」
この時きっと拓巳と付き合えば苦しい想いはしなかった。だけど…愛美を裏切ることなんてできなかったんだ。
「…だよな。でも大好きだ。今もこれからも。」
「ありがとう…。」
その言葉を口にした瞬間に大きな目から大きな雫が零れた。視界が急に歪んだ。
「…っ、泣くなよ…俺やっぱ好きだわ。」
そう言ったあと、拓巳はあたしを大きな手で抱いた。すごく嬉しかった。大好きなんだって、胸の鼓動が蘇る。
「うぐっ…拓巳っ…好き…なのっ…言いたいっ…言えなかっ…たの…。」
その瞬間あたしの中で何かが壊れた音がした。嗚咽を繰り返しながら、なんどもなんども同じ言葉を繰り返す。
「奏多…何も言わなくていい。ありがとう、奏多の優しさ…わかるよ…。」
全て知っていたかのような口調であたしの全てを包む。こんな事しちゃいけないって頭ではわかってるけど、行動には移せなかった…包まれていることの幸せさが心を温めた。
「…ひゃっ、ごめんっ…離れるね。」
「離さない…離せないもうちょっといさせてくんね?」
「…これが最初で最後だからね。」
いい雰囲気の中あたしは気の利いた事さえ一つも言えなかった。
「ありがとう。またな。」
拓巳は小さく手を振った。もう会えなくて関わりのない事を愛美のために願う。…もちろん本音は違う。だけど、あたしは男遊びが激しいって見せなきゃ…好きとかってないんだって見せなきゃ…。あたしだって、悪いってわかってやってた。だけど、1度ハマれば抜けられないんだね。…あたしはバカだよ。好きって気持ちさえ気づけてなくて、誰でも軽々ついて行って…。何やってるんだろ…何人の男の子を傷つけてきたんだろう。何故あたしにはなんにも傷がないんだろう…。

