合宿2日目。
今日に限って少し体調が悪い。
頭の痛み、身体の軋み…あたしはもう歳なのだろうか…。
試合会場に着くとサツキちゃん達がいた。
「サツキちゃん、おはよ。」
「奏多さん、おはようございます。」
「あの…言いにくいんだけど…翔くんって彼女いる?」
これを聞くのに何ヶ月かかったか…そんなあたしが頑張って小さな声でたずねた。
「うーん…今はいないはずですよ?奏多さん、気になるんですか?」
「そっか、ありがとう。まぁ…ちょっとは気になるかなっ。」
「連絡先…いりますか?」
あたしが待ち望んでいた一言をサツキちゃんのプクッとした唇から零れ落ちた。
「ありがとう。いただこうかな。」
嬉しいことがサツキちゃんに読まれないように、冷静に対応した。しかし、あたしの心臓はとてもうるさくてサツキちゃんやスミレちゃん、または近くの人に聞かれないか心配だった。
その後、サツキちゃん達と別れて昼食を取りに行った。すると、頭の中にずっと居座っていた翔くんとすれ違った。
やはり、似合いすぎる胴着姿に一際目立つ美しい顔。また、竹刀も特注の素晴らしい竹が光る。隣を通り過ぎる際に、頭がいっぱいで当たってしまった…。
「あ…すみません。大丈夫ですか?」
ここでも先輩として、冷静な対応とにこやかな笑顔を忘れずに接した。
「俺は大丈夫。あなたは?」
ぶつかったのはあたしのせいなのに、翔くんがあたしを心配してくれた。すごく嬉しくて思考回路はショート寸前だった。
「大丈夫です、ご心配ありがとう。」
少し大人っぽい対応をし、髪をなびかせ歩いていった。子供っぽいあたしにしては、頑張った方だろう。そんなあたしは胸がいっぱいになって涙が出てきた。昔のあたしにはこんな想いをする事なんて知らないだろう。きっとあたしは幸せなんだ。翔くんと出会えたこと、何度も大好きだって気づけたこと、会えたときの喜びを知ったこと、大切という名のあたしの心臓を侵食していく何かを見つけたこと…たくさん貰った。なんにも返せなかった。昔のあたしに伝えたい。遊ぶなと。そして、一生懸命恋せよと。