俺が出会った中で、至上最強最悪な女。

 昔から、今でも、変わらない評価。

 そしてお前はそれを良しとする。


「ふー……っ」


 ゼミが始まるまであと10分。

 暇を持て余して外で一服。

 喫煙所は好きじゃない。耳に入れたくない話まで耳に入る。

 一服するための一服だ。と、思う。


「うっわ、煙たい! ちょっとロカ! 喫煙所行って!」

「俺がどこで吸おうと勝手だろ。つーか俺が先にいた」

「ここは公共の場所ですー! そして喫煙所が設けられてる意味を察しろ!」

「もーすぐ結婚する奴が他の野郎と二人っきりでいていーんですかー」

「うっ。そ、そこはあれよ、向こうもロカを知らないわけじゃないんだし、浮気っぽい雰囲気ではない…はず…」


 同じ学科の同回生であるヤエは、入学当初から周りに一目置かれていた俺をよく構った(ヤエ曰く、目付きが怖いらしい)。

 お陰で俺はハブられる事もなく程よい位置にいる。

 そこは、まぁ。感謝している。つもりだ。


「そーいや、結婚祝いは何がいい? ヤエには世話んなってるしな。あんま高いのは無理だが、希望があれば言ってみろ」

「………何でもいいの?」

「高くなきゃな」

「じゃあ、一つだけ」

「ん」

「ルイって誰?」

「っ、ゴホッ! ゴホッゴホッ」


 予想だにしない言葉に、煙草をふかしていた俺は盛大にむせた。


「な、んで、お前がその名前…?!」

「おや。無意識だったの。たまーに呟いてたよ。寝言とかケータイ見ながらとか」

「っ……」

「ずっと訊いてみたかったんだ。どんな人なのかなーって」

「それ、いつから…」

「割とすぐだったなぁ」

「だからお前……」


 言いたかっただけ、って言ったのか。あの時。

 俺の心の中に居座ってる奴がいるって知ってたから。

 返事はいらないって言ったのか。


「あ、自惚れないでよね。私はもうロカなんか好きじゃないもーん」

「……そうか。そりゃ良かったよ」


 お前が言い逃げしなかったら、俺はお前をもっと悲しい思いをさせるとこだったのか。

 こんな想い抱えたままの俺じゃダメだもんな。

 そうか。知ってたのか。

 良かったのか悪かったのかさっぱり分かんねーなぁ。


「ほらほら、結婚祝いくれるんでしょ。さっさと吐きなさい!」

「はぁ…。赤ん坊の頃から知ってる。俺のことが大っ嫌いでよ、つんけんしてて、ほんと可愛げのねぇ奴だった」

「あー、だから忘れられないのねぇ」

「俺が話せるのはここまでだ。ゼミ行くぞ」

「えっうそ、もっと聞かせてよー!」

「あと10年くらい経ったらなー」

「けち!!」

「何とでも言え」


 あいつは……ルイは、物心ついた頃から俺を嫌っていた。

 それが何故なのか俺は今でも分からない。

 ヤエの言うように、この目付きのせいだろうか。

 とにもかくにも、俺はもうあいつと会う事はないだろう。

 あいつがそう、言ったのだから。


 ――私、県外の大学行くから。多分もう帰らない。お互い清々するね?

 ――さようなら。お兄さん。


*To next*